論文の内容の要旨
【背景・目的】
DNA修復遺伝子MGMTは,DNAメチル化により不活化され,その発現欠失はGC/AT遺伝子変異を引き起こすことが知られている。我々はこれまでに胆道癌の切除標本で, MGMTの発現欠失が予後不良因子となることを報告した。本研究では,胆道癌のMGMT発現欠失による癌悪性度増強の機序解明を目的とし,以下の2つの仮説を推測し解析を行った。(1)癌関連遺伝子群に惹起される遺伝子変異の蓄積。(2)癌抑制遺伝子群(MGMTを含む)に引き起こされる同時性のメチル化異常。
【対象・方法】当院胆道癌切除37例。遺伝子変異はdirect sequence法,メチル化解析はMSP法にて解析。MGMT発現はパラフィン包埋切片を用い,免疫染色にて判定。
【結 果】(1) MGMT発現欠失(19例,51%)はMGMT遺伝子高メチル化(18例,49%)と強く相関した(P<.001)。(2)癌抑制遺伝子群の高メチル化はp16(70%),hMLH1(46%),E-cadherin(41%),DAPK(32%)に認められ,MGMT高メチル化はメチル化多発群(>3遺伝子)と相関傾向を示した
(P=.071)。(3)遺伝子変異(p53, p16, K-ras, b-catenin)は23例,33部位に認められ,変異スペクトラムはGC/AT変異が19例(58%)と最も多く,MGMT遺伝子の高メチル化有意な相関を示した(P=.011)。
【結 論】胆道癌においてMGMT発現欠失は,癌関連遺伝子の遺伝子変異蓄積(genetic機序),癌抑制遺伝子の同時性メチル化異常(epigenetic機序)の両経路により癌悪性度増強することが示唆された。
論文審査の結果の要旨
主査 藤本 一眞
副査 出原 賢治
副査 吉田 裕樹
本論文は,DNA修復遺伝子O6-methylguanine-DNA methyltransferase (MGMT)の発現欠失による癌悪性度増強の機序について胆道癌を用いて解析したものである。佐賀大学医学部付属病院での胆道癌切除症例37例を対象とした。遺伝子変異はdirect sequence法で,メチル化解析はMSP法で解析した。MGMT発現はパラフィン包埋切片を用いて免疫染色で判定した。その結果,(1) MGMT発現欠失(19例,51%)はMGMT遺伝子高メチル化(18例,49%)と強く相関した(P<.001)。(2)癌抑制遺伝子群の高メチル化はp16(70%),hMLH1(46%),E-cadherin(41%),DAPK(32%)に認められ、MGMT高メチル化はメチル化多発群(>3遺伝子)と相関傾向を示した (P=.071)。(3)遺伝子変異(p53, p16, K-ras, b-catenin)は23例,33部位に認められ,変異スペクトラムはGC/AT変異が19例(58%)と最も多く,MGMT遺伝子の高メチル化有意な相関を示した(P=.011)。
以上の成績は,胆道癌においてMGMT発現欠失は癌関連遺伝子の遺伝子変異蓄積(genetic機序),癌抑制遺伝子の同時性メチル化異常(epigenetic機序)の両経路により癌悪性度増強することが示唆するものであった。
よって,本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。