論文の内容の要旨

【目 的】

H.pylori除菌及び酸分泌抑制剤が出血性消化性潰瘍の再出血に与える影響について検討した。

【方 法】

1994年から2001年まで当科での緊急内視鏡検査にて出血性消化性潰瘍と診断された366症例を対象とした。1994年から1997年に診断された群をGroup A,除菌治療開始以後の1998年から2001年に診断された群をGroup Bとした。この2群間で背景因子,内服薬の有無,初期治療薬といった因子を含めて比較し除菌が再出血率に与える影響を検討した。

【結 果】

背景因子については2群間にて有意差はなかった。Group Aでは24例(14.8%),Group Bでは5例(3.2%)の再出血が認められ,Group Bで有意に再出血率が抑制された。また除菌施行症例において再出血は認められなかった。診断後H2拮抗剤治療群では15/12811.7%),プロトンポンプ阻害剤治療群では14/1429.9%)の再出血率であり,両群間にて有意差は認められなかった。

【考 察】

H.pylori除菌は消化性潰瘍の再出血を予防しうると考えられた。また初期治療薬はH2拮抗剤及びPPIのいずれを用いても再出血率に与える影響が少ないと考えられた。

【結 論】

出血性消化性潰瘍の再出血予防にH.pylori除菌は有効である。除菌を行わない場合の薬物治療については,H2拮抗剤,PPIいずれを用いても同等の効果があると考えられた。

 

論文審査の結果の要旨

主査 宮崎 耕治

副査 長澤 浩平

副査 宮本 比呂志

 

 本論文は,出血性消化性潰瘍の再出血に対し,H.pyloriの除菌がその予防に有効であること,除菌を行わない場合に使用される酸分泌抑制剤ではH拮抗剤とプロトンポンプ阻害剤が,除菌には劣るものの両者同等の効果を有することを示したものである。

 1994年から2001年まで消化器内科の緊急内視鏡検査で出血性消化性潰瘍と診断された366症例を対象とし,除菌治療開始前と開始後の年代症例2群に分け,retrospectiveに解析した。除菌開始前では162例中24例(14.8%),除菌後では158例中5例(3.2%)に再出血がみられ,酸分泌抑制剤治療ではH2拮抗剤治療群で128例中15例(11.7%)に,プロトンポンプ阻害剤では142例中14例(9.9%)に再出血がみられ,両群間に有意差を認めなかった。

 以上,出血性消化性潰瘍の再出血予防にH.Pylori菌の除菌が有用であること,薬物治療としてのH拮抗剤とプロトンポンプ阻害剤の効果はほぼ同等であることを主張した論文であるが,前者については年代背景による止血法の差異による影響を否定できないものの,後者について価値を認めた。