論文の内容の要旨
【目 的】
自己増殖能と多分化能を有する神経幹細胞は中枢神経系疾患に対する再生医療の中心的存在として脚光を浴びているが、その増殖をコントロールする機構や微小環境(ニッチ)については不明な点が多い。そのニッチを構成する蛋白質の解析を試みた。
【方 法】
マウス神経幹細胞培養上清中に含まれる微量蛋白質をsurface enhanced laser desorption/ionization time-of flight mass
spectrometry (SELDI-TOF-MS)を用いて検出し、NIH3T3細胞のそれと比較検討した。
【結 果】
神経幹細胞の培養上清中に特異的に発現する15.3kDaの蛋白質ピークを見出し、トリプシン消化法およびエドマン分解法によりpleiotrophin(PTN)と同定した。またPTN receptor (receptor protein tyrosine phospate β/ζ, N-syndecan, anaplastic lymphoma kinase)
mRNAも神経幹細胞に存在することが確認できた。
【考察と結論】
PTNシグナルシステムが神経幹細胞の生存や増殖等に深く関わっている可能性が示唆された。
論文審査の結果の要旨
主査 黒田 康夫
副査 出原 賢治
副査 吉田 裕樹
本論文は,培養神経幹細胞から分泌される微量たんぱく質をsurface enhanced laser desorption/ionization time-of flight mass
spectrometryで同定している。
マウス神経幹細胞と非神経系株化細胞(NIH3T3)を同一条件化で培養して,培養液上清中に存在する微量蛋白の相違を比較検討している。これによると,神経幹細胞の培養上清中に特異的に発現する15.3kDaのたんぱく質ピークがあり,トリプシン消化法およびエドマン分解法にてそれがpleiotrophinであることを同定している。さらに,pleiotrophinに対する受容体のmRNAが神経幹細胞に存在することも明らかにしている。
以上の成績は,Pleiotrophinシグナルシステムが神経幹細胞の生存や増殖等に深く関わっている可能性を強く示唆しており,新しい知見を見出しており,意義あるものと考えられる。
よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと考えた。